ふくろうの本棚

ふくろうには似ても似つかない限界独身男性が色んなことを書きます

外資系男とお笑い芸人

 気がついたら、よその会社様から御用聞きの訪問を受けるような立場になってしまった。自分の中ではようやく大学生並みの精神年齢になれたと思っているぐらいなので、「僕なんか訪問しても大丈夫?時間の無駄じゃない?もしかして僕騙されてない?」なんて疑心暗鬼に駆られてしまう。

 先週は2つの企業から訪問があった。1つはこの業界なら誰でも知っている外資系の計測器メーカーだ。きっと僕よりも稼いでいるのだろう。むしろ僕の方が御用聞きに行きたいぐらいだ。もう1つは色んな海外製品を取り扱う輸入業者である。確かに1つ目の会社よりは大きくないけれども、こういう会社とも仲良くしておくと後々モノを言う。絶対に無碍にしてはいけない。というわけで、色々と時間を調整して彼らの訪問を承諾した。

 1つ目の外資系の計測器メーカーは予定時間の5分前に来た。途中間違ったビルに行ってしまうというトラブルがあったが、無事にこちらの指定場所に来てくれた。こちらに向かって頭を下げてくれているその男は、さながら外資系営業という感じの男であった。体に合ったサイズのスーツ、磨かれた靴、黒縁のメガネ、センターパートの髪。きっとtwitterで平気で年収や自撮りを探すタイプの男ってこんな感じなんじゃないかな、といきり立つ敵愾心を抑えるのに必死であった。その日は僕もスーツを着ていたのだけれど本当に良かった。Tシャツとデニムみたいな格好だったら申し訳なくて憤死していたかもしれない。

 オフィスの応接室みたいなところに通し、その外資系男から製品の紹介を受ける。ただ、正直今年度の調達計画にはその製品は含まれていないため、当たり障りの無いことを言って断ることになる。「来年度以降是非検討させていただきます」ってヤツだ。「行けたら行くね」と同じマインドである。この無意味な訪問を早めに終わらせた方が互いの利益になるよなぁと考え始めたときに、その男はカバンからおもむろに弊社の広報誌を取り出してきた。今年初めに出たその広報誌には僕も1ページほどの文章を寄稿している。「実はピロシキさんの研究内容をこちらの広報誌で勉強してから来たのですが、わからないことがあったので教えていただきたいのですが。」なるほど、これがテクニックか。多分、僕の顔は「ニチャァ」となっていたと思う。

 ひとまず、一通りの研究内容を話す間、外資系男は熱心に頷きながらメモを取っていた。そして、「非常にわかりやすい説明をありがとうございます。わかった気になりました!」ときた。そこはすべてわかってくれよ、と思う反面、こう言われるとやはり嬉しいものだ。しかし、非常に参考になる。自分が色んな人に話を聞きに行ったときに、こんな反応をしてきただろうか。多分していない。このともするとあざといと思われるかもしれない気配りが、年収1000万円(数字は適当だが)を生み出しているのだ。しらんけど。

 次の日は輸入業者とのアポイントだ。当日は家でテレビ会議をし、約束の時間の30分前に会社に着くようにした。会社に着いてからパンを食べていると、守衛室から輸入業者が来たとの連絡が来た。おいおい、約束の20分前じゃん。早く来てもらう分にはいいが、まだ僕の心とお腹の準備ができていないぞ。ひとまずどこかで待ってもらうことにして、急いでパンを飲み込んだ。そして約束の5分ぐらい前にビルの1階に降りていくと、玄関で二人の男が待っていた。え、ここで待ってたの?別なビルに待合室もあるじゃん。たしかに俺もどこで待っててくれと指示しなかったけどさぁ。なんかまるで俺が悪い人みたいじゃん

 玄関には風采の上がらない男2人が待っていた。風采の上がらなさでは僕もいい勝負なので安心する反面、昨日の外資系男の顔を思い出してしまった。男が男の顔を思い出すのは異常事態である。とりあえず、この売れないお笑い芸人のような二人組を応接室のような場所にお通しする。

 応接室で商品の説明が始まる。しかし、どうにも僕が購入する可能性が全く無いような製品ばかりが紹介されていき、正直如何ともコメントがしづらい。さてはこいつら、俺の研究内容を何も勉強しないでここに来ているな。仕方ない、昨日とおんなじ感じで俺の研究内容をお教えしよう、なんてぐにゃぐにゃ考えていたら、淡々とした説明が淡々と終わってしまっていた。「それでは、本日はお時間をいただきありがとうございました」「え、ええ、こちらこそ、お暑い中ありがとうございました。」いくら僕でも、自分から頼まれてもいない研究の話をするほど厚かましくはない。これから他の部署を訪問するというお笑い芸人たちを見送った。

 非常に細かい部分を切り出して、あの会社はこうだとか言う気は無いけど、今週の2つの訪問からは「黒船」の威力ってヤツを思い知らされてしまった。やっぱ年収(推定)1000万円の企業様は人をとても気持ちよくしてくれる。俺もせめて人を訪問するときには、嘘でもいいから勉強しているフリをしておくというテクニックを披露できるようにしておきたい。