古代オリエントのカバ
3連休は妻と二人で岡山へオリエントを訪う旅に出ていた。そもそも「オリエント」とは、「日が昇る方向」を意味しており、古代ローマ世界から見て東側の地域を指す。僕は東京に住んでいるから岡山は西側にあるので、これは明らかに語義矛盾である。この文章、頭で考えていたときはいかに面白い文章かと思っていたが、いざ読んで見るとあまりにも下らない。
さて、岡山で「オリエント」と言えば、岡山市立オリエント美術館である。僕が知る限り、「オリエント」と名がつく博物館は日本に2つあり、そのうちの1つがここ岡山にあるわけだ。最近、オリエント世界、つまり古代メソポタミアや古代エジプト、そこら辺に興味があり、折を見てぜひ訪れたいと思っていた美術館の一つだ。
この美術館には岡山駅周辺から市バスに乗っておおよそ10分程度で到着する。他にも路面電車に乗ってもよい。様々な場所を経由するためにくねくねと曲がりながら進む市バスより、直線的に運行する路面電車の方が得した気分になる。
この日は特別展「ガラスの創造力―色彩と煌めきの4000年―」が開催されていた。日本人にとって、「ガラス」と「オリエント」が並ぶと、はるばるペルシアからシルクロードを通って日本に渡り、今では正倉院に収められている宝物を連想するかもしれない。古代ペルシアよりも前、古代エジプトの時代からガラスは重宝されており、ガラス技法の発展の歴史は文明の発展の歴史でもあるのだ。本展では、遺跡の発掘品を含む様々なガラス製品から人類文明の発展史をなぞっていく。ただ、他の収蔵品を見ることができないのは誤算であった。
個人的に最も気に入ったのはエジプトで出土したファイアンス製のカバの置物だ。カバは古代エジプト人にとっては身近な動物であり、タウレト神としても神格化されている。ファイアンスという釉薬を用いた陶器によって作られたカバの背中には、鳥や草木などが描かれており、古代エジプト人の心象風景たるナイル川の風景が再現されている。エジプト人がどんな想いでこれを作り、所有したかと思うと、そのいじらしさに胸がぎゅっとなる。
このカバはどうやらエジプトではポピュラーな置物だったらしく、8月に訪れたウィーン美術史美術館にも展示されていたし、メトロポリタン美術館にも収蔵されているらしい。また、三鷹の中近東文化センターにも通称「ルリカ」というカバがいるらしい。意外に近くにいたんだなぁ、お前。
その他、イタリアのムラーノ島のガラスやボヘミアンガラスなど、比較的最近のガラスも展示されていた。ムラーノ島もチェコも最近訪れたばかりなので、そこの製品が展示されているのはとても嬉しかった。この時代まで登ると、製法技術も大層洗練されたものとなり、古代オリエントの製品とは比較にならないほど薄く、透明度が高いものとなっている。IT技術の加速度的な発展では無いが、その技術革新の速度には驚嘆するばかりだ。
ちなみに、美術館に併設されているカフェ「イブリク」ではアラビックコーヒーを飲むことができる。細かく引いた豆にカルダモンや砂糖などを混ぜて煮立たせるこのコーヒーは普通のコーヒーとは全く違う味がする。生まれて初めて飲んだような味である。チーズケーキセットと一緒に飲むと最高だぞ。
9月も半ばだというのに35度という気温は正直体に堪えるものであったが、
それでもこの博物館に行ってこれて本当に良かった。
『挨拶強制拒否青年』と僕の知り合い
ここ数日、『職場での挨拶は絶対に必要か?挨拶をしない自由もあるのでは?』と青年が主張するアベプラの動画をよく見る。1分弱のこの動画はもしかしたら恣意的に切り抜かれたものであるかもしれないが、あまり共感できるものではなかった。特に最後の「次の世代作っていくのは若い人たちなんで、そっちが正しいでいいんじゃないかなと思いますね」という言葉は、自分の主張が若い人たちに無条件で受け入れられるという傲慢に満ち溢れたものであり、自分が若くなくなった時にどうなるのかも考えていない、いかにも向こう見ずな若者っぽい主張だと思ってしまう。
後日になって、評判の悪い暴露系Xアカウントにこの発言者のアカウントが掲載され、その素性が明らかになる。どうやらずっと、ミソジニー系の投稿を繰り返してきた様子である。さらにはYoutubeのチャンネルでもやはりミソジニー系の動画投稿を行っていた。アベプラの動画は、内容はともかく、ある程度喋り慣れている印象を受けたのもこれで納得である。
その主張はやはり噴飯ものであるし、僕はこんな先鋭的な主張をするのはもう年老いたおじさんばかりだという偏見を持っていたから、自分よりも若い、いかにも世間知らずなような青年とこんな主張が結びつくことにショックを受けた。ただ、ここではその一つ一つを論駁したい訳ではない。そうではなく、ふと自分の「知り合い」を思い出したから、自分語り的に記しておきたいと思った。
僕が修士学生時代から出入りしていた企業では、僕以外にも大勢の学生をインターンのような立場で出入りさせていた。僕の部署と提携していた別な部署でも年が近い学生と頻繁に顔を合わせるもので、まるで大学にいるかのように錯覚したものだ。そこに、僕より1年ほど遅れて入ってきたのが、その「知り合い」だった。
その悪評はすでに他の学生からも聞いていた。曰く面接で嘘をついて修士の入学を勝ち得ただの、曰く女の子をナンパしすぎて大学にいれなくなっただの、どこまで本当か眉唾ものだと思って話を聞いていたものだ。とりあえず、まずは様子を見ないといけないなぁと思い二人きりで話したところ、確かに話し下手なところもあったが、意外にも誠実な印象を受けた。僕自身、まともな学生ではなかったので、変な仲間意識が芽生え、なんとか仲良くやっていけたらいいなあと思ったものだ。
ただ、実際にはそこまで長い期間一緒にいたわけではなかった。どうやら、会社のロビーに待ち受けて他の企業の女性社員にメアドを聞こうとしたり、他の部署の若い社員につきまとったりしたらしい。もともと飛び抜けた才能もあるわけではなく、むしろサボり癖がひどかったぐらいだから、苦情を受けた指導教官により、半年ほどであっさりと大学に戻されてしまった。あとは風の噂で、やれ修士論文の修正を拒否しただの、やれうちの社員にFacebookの友達申請を送っただの、そんな話を聞くぐらいだった。
それからまた月日が流れ、僕がその企業の社員になってからであったと思うが、その後輩の現状を知ることになる。どうやら修士卒業後に派遣会社を出たり入ったりするものの、全て長続きがしなかったようである。もともと熱心なわけでもなく不器用な感じであったので、それも納得である。そのうち、その後輩が管理するYoutubeのチャンネルを見つけてしまう。最初は「いかに自分が苦労してきたか」「いかに労働社会がバカバカしいか」という内容を朴訥と喋るだけの内容だった。これだけでもかなりこじらせている印象を受けるが、その内容は徐々にいわゆる反出生主義の方向へとシフトしていき、「生まれてこない方が良かった」「子供を生むのは罪だ」系の動画がチャンネル欄に踊ることとなる。人生がうまくいかず、その根拠をどこにも求めることができなくなると、そういう主張に先鋭化してしまうのだろうか。
冒頭の青年からも同じような雰囲気を感じる。こういう単純化をしていいものかわからないが、彼ももしかしたら女の子に全然もてなかったのかもしれない。僕も全然モテなかったから、その辛い気持ちはよくわかる。ただ、「知り合い」も、この青年も、アップロードした動画に再生回数という可視化された反応がついてしまうと、それが快感になってやめられなくなってしまったのかもしれない。そうなると、より耳目を集めるために、思想が先鋭化していくのだろう。
今回、この青年が見つかってしまったのは良かったと僕は思う。視聴者のコメントだけを見ているとエコーチェンバーに陥ってしまうけれども、いろんな人から叩かれることで自分自身の「間違い」に気づくかもしれない。いや、思想に「間違い」があるのか、彼の思想が「間違い」なのか、というところには議論が必要だが、僕は彼の先鋭化しすぎたミソジニー思想は「間違い」であってほしいと思っている。
一方、僕の「知り合い」はこの青年よりも再生数が少ないし、きっとこんなふうに見つかることは無いだろう。そうなると、誰も彼に反対意見をぶつけることもできない。短期間でも個人的な関わりを持った人間が、Youtubeチャンネルという一見開かれているようで、実際には閉じられている箱の中でひたすら発言を続けていくのは非常に哀れに感じる。これは完全に僕の傲慢であるが、誰かが彼を救ってくれるのを祈るのみである。
僕がやれ?いやだよ、そんなの。
8クイーン問題をイジングマシンで解いてみた
『月刊インターフェース』という技術系の雑誌がCQ出版社から出版されている。この雑誌は、プログラミングやマイコン工作のような実用的なトピックを、初心者にもとっつきやすい形で紹介している。この雑誌の先月号の特集が量子コンピューターであった。「量子コンピューターの原理はこれだ!」とか、「量子コンピューターが実現したらビジネスでこんないいことがある!」とか、一般人からしたら雲をつかむような話だけでは終わらず、最近の流行である、クラウド経由で実際に量子コンピューターのプログラミングを行う例を紹介している。量子コンピューターをこんな風に触れる未来が訪れるなんて、僕が初めて量子コンピューターを知った15年前には想像できなかった。感無量である。
続きを読む外資系男とお笑い芸人
気がついたら、よその会社様から御用聞きの訪問を受けるような立場になってしまった。自分の中ではようやく大学生並みの精神年齢になれたと思っているぐらいなので、「僕なんか訪問しても大丈夫?時間の無駄じゃない?もしかして僕騙されてない?」なんて疑心暗鬼に駆られてしまう。
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